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つるみたくない秋【森博嗣】新連載「日常のフローチャート」第29回

森博嗣 新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」連載第29回

 

【同じことをしたくない反面】

 

 自分は飽き性だと理解している。そんな自分をできるだけ自由にさせたい、いつも身軽でいたい、と願っている。だから、同じ場所、同じ集団、同じ作業、同じ環境にいなくても良いようにしむけている。だいたいこんなふうに解釈できるだろう。

 ところがその一方で、極端に同じことを続ける習慣が幾つか観察できる。たとえば、毎日の時間割(小学生のときに使った用語だが)がほぼ決まっている。起床、食事、風呂、就寝などは、5分もずれることがない。血圧を測る時間、トイレの時間などは決めてはいないが、ほぼ同じ時刻になるし、これらを毎日記録している。こんなに几帳面な人間だったのか、と自分でも面白がっている節がある。

 食べるものも、だいたい決まっている。朝のパン、昼のシリアルは、ほぼ同じ製品をずっと愛食している。べつに、ほかのものでも良いのだが、変えたいという欲求が希薄で、考えるのが面倒なのだ。そもそも食事にそれほど興味がないのが原因だろう。

 着るものもほぼ一定だ。気温に応じて緩やかな変化はあるものの、Tシャツや靴下は一年中同じものの中から着回している。庭仕事や工作のときは作業着をきるけれど、ときどき奥様(あえて敬称)が見かねて洗濯してくれている。

 そうそう、彼女と結婚して40年以上になるが、別の人にしようと考えたことはない。考えたり、努力をするのが面倒だ。

 つまり生活面では、飽きがこないみたいだ。ずっと同じことを同じ頻度で繰り返すことができる。しかし、仕事や趣味面では、そうはいかない。新しいことをしない期間を長くは続けられない。

 子供のときはもっと酷くて、生活面でもルーズだった。だから、大人たちから「三日坊主」だと批判されていた。そこで、一般的に目立つ行為については改善しようと努力をした結果、今のような状況になったと分析できる。

 どういうわけか、同じことを繰り返すと、世間から褒められることが多い。努力を積み重ねたように見えるらしい。諦めずに、一途に、こつこつと実行することが望まれているみたいだ。たとえば、愛情にしても、同じ人だけをずっと愛し続けることが期待されているように観察される。これは何故なのだろうか? どうして、このような継続が美徳とされるのだろうか? そうなる理由を僕は知りたい。継続すると良いことがあるというが、世間一般からの評価以外で、なにか具体的良い結果を招くだろうか?

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 〈無駄だ、贅沢だ、というのなら、生きていること自体が無駄で贅沢な状況といえるだろう。人間は何故生きているのか、と問われれば、僕は「生きるのが趣味です」と答えるのが適切だと考えている。趣味は無駄で贅沢なものなのだから、辻褄が合っている。〉(第5回「五月が一番夏らしい季節」より)。

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森博嗣

もり ひろし

1957年愛知県生まれ。工学博士。某国立大学工学部建築学科で研究をするかたわら、1996年に『すべてがFになる』で第1回「メフィスト賞」を受賞し、衝撃の作家デビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか、「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、また『The cream of the notes』シリーズ(講談社文庫)、『小説家という職業』(集英社新書)、『科学的とはどういう意味か』(新潮新書)、『孤独の価値』(幻冬舎新書)、『道なき未知』(小社刊)などのエッセィを多数刊行している。

 

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